チェーン居酒屋の味が全店同じ理由|マニュアルの分量を、彼女とドライブしながら覚えた話

キャリア・裏話

チェーン居酒屋に行って、こう思ったことはないでしょうか。

「この店、前に行った別の店舗と全く同じ味やな」

当たり前のようでいて、よく考えると不思議な話です。作っている人は店ごとに違う。ベテランもいれば、入ったばかりのアルバイトもいる。それなのに、味が揃っている。

答えは単純で、マニュアルがあるからです。

今日は少し肩の力を抜いて、そのマニュアルにまつわる思い出話を書きます。正直、ちょっと恥ずかしい話です。

教われるのは「やり方」まで。分量は自分で覚える

まず、チェーン居酒屋の教育がどうなっているかという話から。

現場に入れば、先輩が仕事を教えてくれます。焼き方、盛り付け、道具の使い方。私も年下の古株アルバイトにいろいろ教わりました

でも、教えてもらえるのは基本的に「やり方」までです。

料理の分量は、すべてマニュアルで決まっています。

  • この料理の調味料は何グラム
  • この盛り付けは何個
  • このタレは何cc

これが全メニュー分あります。その量たるや、なかなかのものです。

そして、これを現場で読み込んでいる時間はありません。営業中は当然無理ですし、開店前の2時間も仕込みで埋まっています。

つまり、分量の暗記は、基本的に自習なんです。新人にマニュアルを渡すときも、「家で読んできてね」というのが正直なところでした。

なぜチェーン店は味が揃うのか

ここで少し、まじめな話を。

「マニュアル通り」という言葉は、あまり良い意味で使われません。融通が利かない、心がこもっていない——そんなニュアンスがついて回ります。

でも、チェーン店にとってマニュアルは品質を守るための道具です。

考えてみてください。お客さんが「この店の唐揚げが好きだ」と思って、別の日に別の店舗に行ったとします。そこで味が違ったら、どう感じるでしょうか。

「前のほうが美味しかったな」で終わりです。

作り手が誰であっても、店舗がどこであっても、同じものを出す。それが「あの店に行けば、あの味がある」という信頼を作ります。分量が決まっているのは、その約束を守るためなんです。

だから覚えるのは大変ですが、意味のある大変さでした。

白状します。彼女とドライブしながら覚えていました

さて、ここからが本題です。

膨大な分量を、どうやって覚えたか。

私がやっていたのは、こういう方法でした。

休みの日、彼女とドライブに行く。運転しながら、彼女にマニュアルを渡す。そして助手席から問題を出してもらう。

「じゃあ次。〇〇は何グラムでしょうか?」

……はい。デートです。デート中です。

車を走らせながら、隣で彼女が居酒屋のマニュアルを開いて、クイズを出してくれる。私は運転しながら「えっと、〇グラム!」と答える。当たれば次、間違えれば正解を教えてもらう。

今思い返すと、なかなかの光景だなと思います。

でも、これがけっこう効いた

ふざけているようで、この方法は理にかなっていました。

① 運転中は他にやることがない

手も目も塞がっているようで、口と頭は空いています。音楽を聴きながら流れていく時間を、そのまま暗記に使える。

② 一人で読むより、圧倒的に頭に入る

黙読していると、どうしても「読んだつもり」になります。でも人から問われると、思い出せるかどうかが一発で分かる。分かっていないところが、その場で炙り出されます。

③ 覚える作業が、ひとりぼっちにならない

これが一番大きかったかもしれません。休日に一人でマニュアルとにらめっこするのは、正直しんどい。でも誰かが一緒にやってくれると、それだけで続きます。

人に問題を出してもらう。 単純ですが、暗記の効率としては相当いい方法だと思います。

分量のほかに、覚えることはまだある

マニュアルの分量が大変だという話をしましたが、覚えるものはそれだけではありません。

とくにホール担当は、次の2つが最初の関門になります。

① ハンディの使い方

ハンディというのは、注文を入力する携帯端末のことです。お客さんの前でこれを操作して、厨房へ注文を飛ばします。

操作自体は難しくありません。ただ、お客さんを待たせながら操作するのが難しい。焦ると押す場所が分からなくなり、頭が真っ白になります。だからこそ、手が勝手に動くレベルまで慣れておく必要があります。

② 卓番(テーブル番号)

そしてもうひとつが卓番、つまりテーブルの番号です。

「5番さんにこれ持っていって」と言われて、一瞬でも迷ったら足が止まります。料理は温かいうちに出さなければいけないのに、番号を探して店内をうろうろする——これが新人時代のあるあるです。

だから新人には3日で卓番を覚えてもらうことをゴールに設定していました。地味ですが、ここが入っていないと何をするにも遅れます。

ちなみに、テストはありませんでした

ここまで「覚えろ」と書いてきましたが、実はマニュアルの暗記テストのようなものは、特にありませんでした。

抜き打ちで「唐揚げのタレは何cc?」と聞かれる制度もなければ、合格しないと持ち場に立てないという仕組みもない。

じゃあ覚えなくてもいいのかというと、逆です。テストがないぶん、現場が全部テストになります。

注文が入れば作らなければいけない。そこで分量が分からなければ、誰かに聞くか、手が止まるか。覚えているかどうかは、毎日その場で証明されてしまうんです。

試験の点数より、現場の一皿。そう考えると、休日にドライブしながらでも覚えようとしたのは、案外まっとうな判断だったのかもしれません。

今の新人さんへ

もし今、飲食のマニュアルを前に途方に暮れている人がいたら、伝えたいことがあります。

あの量は、真面目に読み込もうとすると挫折します。

最初から全部覚えようとしなくていい。まずは自分の持ち場でよく出るものから。そして、誰かに問題を出してもらう。家族でも、友達でも、恋人でも。

覚えることは仕事ですが、覚え方は自由です。

私の場合、それがたまたまドライブ中の彼女でした。

……付き合ってくれた当時の彼女には、今も少し感謝しています。

まとめ

  • チェーン居酒屋の味が揃うのは、分量がすべてマニュアルで決まっているから
  • 教われるのは「やり方」まで。分量の暗記は基本的に自習
  • マニュアルは融通の利かない縛りではなく、「あの店の味」を守る約束
  • 覚え方のコツは、人に問題を出してもらうこと。読むだけより圧倒的に頭に入る
  • 私はそれを、ドライブ中の彼女にやってもらっていました

真面目な話と、しょうもない思い出話が半分ずつになりました。

でも飲食の仕事って、だいたいこんな感じです。大変なことの隣に、笑える話がある。 10年やって残っているのは、案外こういう記憶のほうだったりします。

この記事を書いた人
店長ほりちゃん

店長ほりちゃん|チェーン居酒屋 正社員10年・元店舗責任者

22歳で入社。接客が大の苦手で厨房に逃げ込んだところから、人手不足でホールに駆り出され、3ヶ月で代行責任者、3年で店舗責任者へ。調理・接客・計数管理・スタッフ教育まで、店を丸ごと回す10年を過ごしました。

このブログでは、「いらっしゃいませ」も言えなかった人間がどうやって店長になったのか、その現場のリアルを書いています。

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