「仕事は見て盗め」——飲食の厨房には、まだこの文化が残っています。
でも新人からすれば、こう思いませんか?
「盗めるほど近くで見せてもらえないんですけど…」
みんな忙しいんです。教えたくないんじゃない。教える時間がないんです。だったらどうするか。
私の答えはこれでした。
教わる時間は、待つものじゃなく、自分で作るもの。
この記事では、接客もできない厨房上がりの私が、居酒屋で鯛をさばけるようになるまでの実話を書きます。技術そのものより、「技術の教わり方」の話です。たぶんどの業界でも使えます。
この記事を書いた人
| 名前 | 店長ほりちゃん |
| 経歴 | チェーン居酒屋 正社員10年 |
| 入社時 | 22歳。接客が大の苦手 |
| その後 | 3ヶ月で代行責任者 → 入社3年で店舗責任者 |
| 得意分野 | 焼き場・魚さばき・原価管理・スタッフ教育 |
社員なのに、魚がさばけない
前回の記事で書いたとおり、私は接客から逃げて厨房に入った正社員です。
ただ、厨房に入ったからといって、すぐ何でもできるわけではありません。当時の私にとって一番の壁が魚でした。居酒屋で魚を任されるのは、はっきり言って花形です。そして花形の仕事は、簡単には回ってきません。
うちの店で魚をさばいていたのは、社員ではなく「できる古株アルバイトさん」でした。現場歴は私よりずっと上。鯛を任されるレベルの腕です。
教わりたい。でも、その人は早番で仕込みに追われている。営業が始まれば戦場。「教えてください」と言ったところで、教える時間がどこにもない。
私がやったこと:先輩の早番仕事を、先に終わらせた
そこで考えました。
教えてもらう時間がないなら、その人の時間を空ければいい。
やり方は単純です。
- その先輩アルバイトさんより早く出勤する
- 先輩が早番でやるはずの準備仕事を、先に全部終わらせておく
- 先輩が出勤すると、本来仕込みに使うはずだった時間が空いている
- その空いた時間で、鯛のさばき方を教えてもらう
先輩からすれば、自分の仕事が終わっていて、そのぶん後輩に教える。悪い話ではありません。教わる側が「授業料」として先に汗をかく——それだけのことです。
でも、この「それだけのこと」をやる新人は、ほとんどいません。だからこそ効きます。
最初の鯛は、骨に身が大量についた
さて、肝心の腕前ですが。
最初はひどいものでした。三枚におろしたはずが、骨のほうに身がごっそり残る。商品になる身より、骨についた身のほうが多いんじゃないかというレベル。鯛に申し訳ない。原価的にも申し訳ない。
でもここで大事なのは、下手なことじゃなくて、下手な期間をどう短くするかです。
自宅練習は、鯛じゃなくてイワシとアジ
店の鯛で練習させてもらえる回数には限りがあります。じゃあ自宅で練習しよう——と思っても、鯛は高い。毎日買える魚ではありません。
だから私は、イワシやアジを買ってきて練習しました。
これが正解でした。
- 安い。失敗しても財布へのダメージが小さい。だから数をこなせる
- 魚の体の構造は基本的に共通。安い魚で覚えた包丁の入れ方は、高い魚にもちゃんと通じる
- そして練習した魚は、その日の晩ごはんになる。無駄がない
技術の練習で一番大事なのは質より回数です。そして回数を稼ぐには、1回あたりの失敗コストを下げること。「本番は鯛、練習はアジ」。これはどんな技術習得にも応用できる考え方だと思っています。
この経験から言えること
魚の話をしてきましたが、伝えたいのは3つだけです。
- 教わる時間は、自分で作る。先輩の仕事を先に終わらせれば、その時間が授業になる
- 最初の失敗は当たり前。骨に身がごっそり残ってからが練習のスタート
- 練習は安い素材で回数を稼ぐ。失敗のコストを下げれば、人は勝手に上達する
「教えてもらえない」と嘆いている時間で、先輩の仕込みをひとつ終わらせる。現場の技術は、そうやって手に入れるものでした。
そしてこの方法にはおまけがあります。先輩の仕事を先回りできる新人は、技術と一緒に信頼も手に入ります。私が3ヶ月で代行責任者を任されたのも、たぶんこれと無関係ではありません。

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