バイトに何も言えない店を、店長の店に戻すまで|大型店立て直しの1年

店長・マネジメント

居酒屋チェーンで働いて6年目ごろ、私は大型店舗へ異動になりました。

任務は、店舗の立て直しです。

「立て直し」と聞くと、売上のテコ入れとか、赤字脱出とか、そういう数字の話を想像すると思います。でも、私が任されたのは違いました。

バイト主導になってしまった店を、店長(社員)主導の店に戻すこと。

売上でも原価でもなく、です。今日は、この店を1年かけて立て直した話を書きます。たぶん、このブログでいちばん重たい話です。

「バイト主導の店」とは、どういう状態か

まず、バイト主導の店がどんな状態か説明します。

一言でいうと、店長も社員も、アルバイトに意見できない・言えない状況です。

私が着任したときの店は、こうでした。

  • 全体的に、基本だらだらしている
  • 暇な時間ができると、おしゃべりが始まる

私は内心こう思っていました。「しゃべってねーで、掃除とか販促とかあんだろ!」——暇な時間は、やることがない時間ではありません。開店前でも営業中でも、店には掃除も仕込みも店頭の販促も、やるべきことが常にあります。それが全部、止まっている。

そして問題は、それを誰も注意しないことです。社員は私を入れて2〜3名いました。古株のアルバイトも2〜3人。社員の誰も、その古株たちに「手が空いたらこれをやって」の一言が言えない。注意する側であるはずの社員が、遠慮して黙っている店。それがバイト主導の店です。

なぜ社員は言えなくなるのか

理由は、正直なところ分かりません。言えなくなっていた社員本人に、理由を聞いたことがないからです。

推測なら、できます。言ったら言い返されるから。嫌な人と思われたくないから。長くいる古株のほうが店の細かいことを知っていて、現場はバイトで回ってしまっているから——たぶん、そのどれもが少しずつ本当なんだと思います。

ひとつ言えるのは、これは社員個人の弱さの問題ではなく、店に染み付いた空気の問題だということです。空気が「注意しない店」になってしまうと、後から来た人もそれに合わせてしまう。だから、空気ごと変えるしかありません。

最初の1ヶ月は、あえて何も言わない

では、着任した私が最初に何をしたか。

何もしません。おとなしくしていました。

期間にして1ヶ月くらい。理由は2つあります。

1つ目は、店を把握するまでは動けないから。誰が何をできて、何ができていないのか。どこがだらけていて、どこはちゃんと回っているのか。それが分からないうちに注意しても、的外れになります。

2つ目は、最初は問題が起きないからです。アルバイトは新しい店長が来ると、こちらの様子を伺います。「この店長はどういう人か」を見ている間は、みんなそれなりにちゃんと動く。だから着任直後は、実は何も言う必要がないんです。

そして、様子見の期間が過ぎると、必ずこうなります。

「この人、何も言わないな」

そう思われた瞬間から、店は元のだらけた空気に戻っていきます。おしゃべりが復活し、手が止まる。——実は、そこが勝負どころです。

緩んだ瞬間に、一気に変える

店を把握し終えて、相手の素の状態も見えた。そのタイミングで、私は豹変します

ここからは、一切妥協しません。だらけていたら、その場で指摘する。やるべきことをやっていなかったら、はっきり言う。言い訳をしようものなら、倍にして指導する。

反発はなかったか、とよく聞かれそうですが——反発はありません。というか、させません。中途半端に注意して、言い返されて、引き下がる——これをやったら元の木阿弥です。前任の社員たちが言えなくなったのは、たぶんこの「言い返されたら引き下がる」を繰り返したからです。だから私は引き下がらない。指摘は具体的に、正面から、その場でやる。

大事なのはここです。こちらの言っていることが正しければ、最後は伝わります。「掃除をしろ」「手が空いたら販促をしろ」は、理不尽な要求ではありません。仕事として当たり前のことを、当たり前に求めているだけ。筋の通った指摘は、時間はかかっても納得されます。逆に言えば、筋の通らないことは一つも言ってはいけない。そこが崩れたら、この方法は全部崩れます。

正直に書いておくと、当時の私のやり方は、今の時代の感覚からするとかなり荒っぽい部類だと思います。そのまま真似してくださいとは言いません。ただ、芯の部分——責任者が、言うべきことを言うべき場面で言う——は、今も昔も変わらず正しいと思っています。

辞める人は、出る。それでいい

がんがん指摘するようになれば、当然、辞めていく人も出ます。

でも、大体は残ります。みんな生活のために働いているし、慣れた職場を簡単には手放しません。以前書いたとおり、辞める・辞めないを決める要因は人間関係や勤務時間など色々ですが、「ちゃんとした店になること」が理由で辞める人は、実はそう多くないんです。

それでも辞める人については——はっきり書きます。

辞められるのが怖くて、面倒な人に何も言えず我慢するくらいなら、辞めてもらって少ない人数で店を回したほうが、精神衛生上ずっといい。

これが、立て直しを通していちばん腹に落ちた結論です。「あの人に辞められたら困る」という恐怖が、社員の口を塞ぎ、店をバイト主導にする。だったら、その恐怖ごと手放す。人が減れば一時的にきつくなりますが、シフトの組み方指示の出し方で店は回ります。回した実績ができれば、「辞められたら困る」の呪縛は二度と戻ってきません。

結果:半年でまともに、1年で完了

時間はかかりました。

  • 半年で、店はまともになりました。だらだらは消え、注意が通る店になった
  • 入れ替わりで辞める人が出た分、採用と教育で人を揃えて、1年で立て直し完了

1ヶ月の沈黙、切り替えてからの半年、人員を揃え直す半年。合計1年。派手な魔法は何もありません。でも、店長が店長の仕事をできる店に戻りました。

まとめ

  • バイト主導の店とは、店長も社員もアルバイトに意見できない店。だらけを誰も注意しない
  • 立て直しの最初の一手は、あえて1ヶ月何も言わないこと。店を把握し、相手の素が出るのを待つ
  • 「この人何も言わないな」と緩んだ瞬間に一気に切り替える。以降は妥協しない、引き下がらない
  • 通すのは筋の通った指摘だけ。正しいことなら、時間はかかっても伝わる
  • 辞める人は出るが、大体は残る。辞められる恐怖と引き換えに口を塞ぐくらいなら、少ない人数で回すほうがいい
  • 期間は半年でまとも、1年で完了

接客が苦手で、「いらっしゃいませ」も言えなかった私が、店の空気を丸ごと変える役をやることになるとは、入社した頃は思ってもいませんでした。

でも、やってみて分かりました。店の空気を作るのは、声の大きさでも威圧感でもなく、「この人は言うべきことを言う人だ」という信頼です。それは、接客が苦手でも作れます。


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この記事を書いた人
店長ほりちゃん

店長ほりちゃん|チェーン居酒屋 正社員10年・元店舗責任者

22歳で入社。接客が大の苦手で厨房に逃げ込んだところから、人手不足でホールに駆り出され、3ヶ月で代行責任者、3年で店舗責任者へ。調理・接客・計数管理・スタッフ教育まで、店を丸ごと回す10年を過ごしました。

このブログでは、「いらっしゃいませ」も言えなかった人間がどうやって店長になったのか、その現場のリアルを書いています。

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