常連さんは「特別扱い」で作るんじゃない|元居酒屋店長がやっていたたった一つのこと

接客の悩み

前回の記事で、常連さんが増えるほど接客は楽になると書きました。

では、その常連さんはどうやって増えていくのか。今回はその中身の話です。

先に結論を書きます。常連さんは、特別扱いでは作れません。 サービス品を出すことでも、値引きでもない。私が10年やって確信したのは、もっと地味で、もっと簡単な、たった一つのことでした。

常連さんは「何回か来てくれるうち」に生まれる

まず身も蓋もない話から。常連さんができる過程は、とてもシンプルです。

何回か来てくれるうちに、自然と常連さんになる。

こちらが何か特別な仕掛けをしたわけではありません。1回目、2回目、3回目と足を運んでくれる人がいて、そのうちに「あ、この人また来てくれた」となる。その積み重ねが常連さんです。

だから、最初から常連さんを「作ろう」とする必要はありません。目の前の一回を普通にこなしていれば、勝手に生まれてきます。

特別扱いは、していなかった

「常連さんには何かサービスしていたんですか?」とよく聞かれそうですが、正直に言います。

特に特別なことはしていませんでした。

強いて言えば、料理をちょい多めに盛るくらい。ただそれも、常連さんだけを露骨にえこひいきするようなものではなく、こっそり気持ち程度です。

派手なサービスや値引きで常連さんを作ろうとすると、たいてい失敗します。サービス目当ての関係は、サービスが止まった瞬間に終わるからです。それに、他のお客さんから見て「あの人だけ優遇されている」と映るのは、店全体にとってマイナスでしかありません。

やっていたのは、ただ一つ「名前を呼ぶ」こと

では、何をしていたのか。名前を覚えて、名前で呼ぶ。 これだけです。

  • 入ってきたら「○○さん、いらっしゃいませ〜
  • ○○さん、こんばんはー
  • そして、会話の途中でも名前を呼ぶ

たったこれだけです。でも、これが効きます。

考えてみてください。自分の名前を覚えてもらえていて、悪い気分になる人はいません。 「この店は自分を認識してくれている」という感覚は、無料のサービス品よりずっと嬉しいものです。

そして、これは接客が苦手な人にとって、とてもありがたい方法でもあります。面白い話をする必要も、会話を弾ませる才能も要りません。覚えて、呼ぶ。 それだけなら、口下手な人間にもできます。

私が「いらっしゃいませ」も言えなかったところから10年やれたのは、こういう「才能の要らないやり方」を積み重ねたからだと思っています。

覚えていたのは、名前と顔と、もう一つ

私が意識して覚えていたのは、次の3つです。

覚えること なぜ
名前 呼ぶため。最重要
名前と結びつけるため
仕事 会話の入口になるため

特に仕事を覚えておくと、会話がぐっと楽になります。「今日はお仕事お忙しかったですか」「そちらの業界、今の時期は繁忙期ですよね」——こちらから話題を探さなくても、入口が用意されているようなものです。

会話が苦手な人ほど、話す訓練より、覚える努力をしたほうが早い。これは断言できます。

名前は「呼びながら」覚える

「名前を覚えるのが苦手で」という人のために、私のやり方を書いておきます。

特別な記憶術はありません。やっていたのはこれだけです。

会話の中に名前を入れて話す。そうすれば、だいたい覚えます。

「〇〇さん、今日はお早いですね」「〇〇さん、いつものでいいですか」——こうやって口に出して呼びながら接すると、覚えようと意識しなくても頭に残ります。

これは理にかなっていて、黙って暗記するより、使ったほうが定着するからです。ノートに書いて覚えるより、名前で呼んだ回数のほうが効きます。

しかも一石二鳥で、覚えるための行為が、そのまま接客になっている。 呼べば呼ぶほど覚えるし、呼べば呼ぶほどお客さんは喜ぶ。こんな都合のいい方法は、なかなかありません。

やってはいけないのは「過剰な優遇」

最後に、常連さんとの付き合いでやってはいけないことを書いておきます。

過剰な優遇です。

具体的には、こういうものです。

  • 料理やドリンクを無料で提供する
  • 頼まれてもいないのに大量に料理を出す

気持ちは分かります。よく来てくれる人に何かしたくなる。でも、これをやり始めると店が壊れます。

理由は3つあります。

① 他のお客さんから見えている
隣の席で「あの人だけ何かもらっている」と見えた瞬間、その店は不公平な店になります。常連さん一人のために、他の全員の居心地を下げていることになる。

② 引き返せなくなる
一度出したものは、次から出さないと「今日はないの?」になります。好意で始めたことが、義務に変わる。 そして断った瞬間に関係が悪くなる。

③ 店の数字を壊す
無料提供も出し過ぎも、そのまま原価を押し上げます。それは巡り巡って、まじめに働いているスタッフの環境に返ってきます。

常連さんに返すべきなのは、モノではなく「覚えていること」です。名前を呼び、好みを知っている。それはタダですし、なくなりませんし、誰の不公平にもなりません。

異動先の店まで、来てくれた3人組

常連さんについて、忘れられない話があります。

私は10年の間に何度か店舗の異動を経験しました。ある店から別の店へ移ったときのこと。異動先の店まで、わざわざ足を運んでくれたお客さんたちがいました。

会社員の3人組のおじさんたちです。前の店で、いつも一緒に飲みに来てくれていた方々でした。

正直、驚きました。店を変えれば、お客さんとの関係もそこで終わる——そう思っていたからです。でも彼らは、店ではなくについてきてくれた。

私は面白い話ができる人間ではありません。特別なサービスもしていません。ただ、名前を覚えて呼んで、少し料理を多めに盛って、仕事の話を少し聞いていただけです。

それでも、人はついてきてくれる。接客の値打ちは、話の上手さでは決まらないと教えてもらった出来事でした。

まとめ

  • 常連さんは何回か来てくれるうちに自然と生まれる。作ろうと力まなくていい
  • 特別扱いは不要。サービスで作った関係は、サービスが止まれば終わる
  • やるべきはただ一つ、名前を覚えて、名前で呼ぶ(会話の途中でも呼ぶ)
  • 覚えるのは名前・顔・仕事。仕事は会話の入口になる
  • 料理をちょい多めくらいは、こっそり気持ち程度で

常連さんづくりに、才能もセンスも要りません。覚えて、呼ぶ。 接客が苦手な人ほど、この地味な武器が効きます。

この記事を書いた人
店長ほりちゃん

店長ほりちゃん|チェーン居酒屋 正社員10年・元店舗責任者

22歳で入社。接客が大の苦手で厨房に逃げ込んだところから、人手不足でホールに駆り出され、3ヶ月で代行責任者、3年で店舗責任者へ。調理・接客・計数管理・スタッフ教育まで、店を丸ごと回す10年を過ごしました。

このブログでは、「いらっしゃいませ」も言えなかった人間がどうやって店長になったのか、その現場のリアルを書いています。

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